五木寛之さんの「いまを生きる力」
本日から季節は、秋分。
彼岸花が、秋分の前後一週間はお彼岸ですよ、と教えてくれます。
七十二候は、秋分の初候で【雷乃収声:かみなりすなわちこえをおさむ】です。
本日の雷乃収声で、5日に1回の七十二候のペースで、まる2年、72×2=144個目の記事です。
これからも、ゆるく、ひっそりと続けてまいりますので、宜しくおねがいします。
さて、本日のお題は、先日、富士市民大学で、作家の五木寛之さんの講演を拝聴したときのものです。
NHKのHPより
恥ずかしながら、五木作品は一冊も読んだことがないので、作家としての五木さんのお話は無しで(笑)。
ただ講演は、『いまを生きる力』と題して、87歳の五木さんが、歳をとるとはどういうことか、というお話で、大変興味深く拝聴したのでした。
私は来年50歳。
日本人の平均寿命が伸びたのは、太平洋戦争以後のことで、それまでは平均寿命は男女とも50歳に満たなかったんですね。
そう考えると、来年からの私の人生は、ラッキーなおまけみたいなもの。
もっと楽しまなくっちゃ!
けれど、「人生百年時代」とか、「老後何千万円無いとダメ」とか、暗いお話ばかり。
サラリーマン川柳では、
『このオレに あたたかいのは 便座だけ』
とか、実に寂しい…。
夢と希望に溢れた「青春」時代と言いますが、
青春
朱夏
白秋
玄冬
と色にたとえられます。
老後は、寂しく、暗い世界しか無いのか…?
「心」「鬱」ということに関してお話がありました。
日本の、「鬱」という言葉に対して、世界にも似た言葉が沢山あり、
それは、ポルトガル語の「サウダージ:郷愁、憧憬、思慕、切なさ」であり、
(ポルノグラフィーの歌にもありますね))
それは、中国語の「悒:憂える、悲しむ、嘆く」であり、
それは、アメリカの「ブルース:孤独感や悲しみを表現する独唱歌」であり、
けれども、日本の「鬱」がマイナスのイメージしか持たないのに対して、外国のこれら言葉は、それだけではなく「大事なもの」を含んでいる、と言います。
憂い、愁い、哀しみ、悲しみなどの気持ちを持ちながらも、人間はそこから逃げられないのだから、心の中に見据え、共存していく大事なもの、なのだそうです。
同様に、かつて日本にも、暗愁(あんしゅう)という言葉があり、よく使われたのだそうです。
戦後70年間、この暗愁という言葉は忘れられてきましたが、
本来の人間の生き方に出会った時、真実に出会った時に生まれる気持ち、
真実のあり方、
本当の事を本当のものとして理解できるようになったからこそ、
心のなかに持つようになる気持ちであり、
マイナス面だけとらえずに、心に抱きつつも、心を切り替えて生きていく。
それが大事なのだと思う。と五木さんは話されました。
例として話されたのが、ナチスの強制収容所経験に基づいた書かれた、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』。
これは私も読んだことがあります。
極限を生き抜く人は、けっして強靭な精神の持ち主でも、屈強な肉体の持ち主でもなく、自分を励ますことが出来る人、なのです。
人間不振と自己嫌悪から生まれる鬱。
実は個人的なことではなく、人間の存在そのものからくるもので、
自分で慰める事が大事。
その方法は、自分自身の回想の中から、いいことを思い出して咀嚼して生きて行く事だと、五木さんは話されます。
回想の引き出しをたくさん持ち、
しょっちゅう思い出す。
思い出していないと、錆びついて開かなくなるから。
「人っていいな」
「生きてるって悪くないよな」
と思い出せるような回想の引き出しから、
深く自分が沈みそうな気持ちになる時、気持ちを切り替えて行きてゆこう、そうすれば、たとえ一人でも寂しくはない、と。
無限の回想、無限の体験は、歳を重ねてこそ増えてゆく。
「忘れてしまってはもったいない」
と、しめくくられました。
回想の引き出しから五木さんが例として話された思い出は、大変に面白く、あの年齢でカクシャクとよどみなく話されるのは、すごいなぁと思いましたし、私自身も、そんな引き出しを一杯作らなきゃと思ったのです。
そう、家を1軒つくるのには、そのお客さんの、懐事情から、夫婦のあり方、子育ての考え方に至るまで、深—く、寄り添うことになります。
そんな経験を通し、泣いたり笑ったりしながら、よく考えたらいろんな引き出しを今までもこれからも増やして行ける建築士の仕事は、そういう意味でもいい仕事なんだなと思いましたし、引き出しが錆びつかないように、しょっちゅう思い出して大切にしてゆこう、そう思いました。
文:鈴木克彦
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住まいマガジン「びお」の、静岡地方版ざます。
工務店のマクスから、家づくりの情報とは違った切り口で、「住まいと暮らしの視点」からローカルで旬な話題を発信してゆこうと思っておりますワン。
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