おかめさんに工事の無事を祈る
10月に入って最初の七十二候は、秋分の末候で【水始涸:みずはじめてかるる】。
川の水が枯れる、という意味ではなく、田の水がなくなること、つまり稲穂の実りの時期のことだそうです。
新米の季節ですね。
収穫といえば、もう少し先ですが、勤労感謝の日には、天皇がその年の収穫に感謝する大切な行事として新嘗祭があります。
家づくりで大切な行事といえば、まずはじめに土地を鎮める地鎮祭。
そして、棟が上がる上棟式、ではないでしょうか。
ここ最近、3軒の上棟がございました。
三枚の写真で、いつも青い服の社員大工の菊池が掲げているのが、「幣束(へいそく)」というものです。
御幣(ごへい)とも言います。
神棚やお祭りのしめ縄にある四角く折った紙、これを紙垂(しで)と言いますが、乱暴に言えば、紙垂がついた棒が幣束です。
で、この幣束、工事の無事と家内安全を祈って用意されるものですが、
こんな派手なデラックスセットもあります。
これ見ると、おかめの面がついているのがお分かりかと思います。
このおかめには、こんなお話があります。
鎌倉時代のお話。
長井飛騨守高次という名宮大工は、京都の瑞應山、千本釈迦堂大報恩寺の本堂の建立にあたり、総棟梁に選ばれます。
ところが、構造材の加工中、檀家より寄進された大切な四天柱(四角形のお寺の内部の中央にある四本の化粧柱)の一本を、間違えて短く切ってしまいます。
他の柱だったら新しい柱でやり直し、となるのですが、代わりのきかない大事な柱、高次は、いまでいう鬱状態になったことでしょう。
その時、高次の妻の阿亀(おかめ)は、柱の上に枡組をしたらどうかと提案します。
枡組とは…?
この写真の中央の動物は獅子で、部位的には木鼻(きばな)という飾りで、その上の四角い枡が組み合わさっているのが枡組です。
上の写真は、東京都大田区大森にある諏訪神社。
ひょんなことから縁のあるものだと分かって見学をさせていただいた時に撮影したものです。
もうひとつちなみに、
こちらの写真は、建替えの際に既存の大黒柱を再利用した際、間違えて切ったのではなく(←ここ大事…笑)長さが最初から足りなかったので、枡組ほどではないですが、ちょっと工夫した部分です。
そして話は戻り、短い部分を枡組で組み上げ、高次は見事な骨組みを完成させました。
ところが、おかめは、
「女の提案によって棟梁は大役を果たすことが出来た」
ということが世間に知れ渡っては大変と、上棟を待たずして自害してしまうのです。
高次は、上棟のその日、亡き妻阿亀の面を御幣につけて飾り、工事の無事ととともに冥福を祈ったのです。
この話を伝え聞いた人々が、後に弔いの塔を建て、「おかめ塚」と呼ぶようになったのだとか。
名声を守るために自害までしたのに結局話しが漏れたの?
という点はおいておきましょう。
特に西日本では、上棟の幣束におかめの面を付け、家内安全と工事の無事を祈るようになったのだとか。
諸説あるようですが、悲しいお話ですね。
ですが、どんなに逆境の時にでも、諦めない心、というのは、前回の七十二候の時にご紹介した伊藤真波さんもそうですが、女性の方が強いんでしょうね。
こんな昔話を知っていると、上棟の時のありがたさも、より深いものになるかも知れませんね。
文:鈴木克彦
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