- 2011.04.01 金曜日
- 以前、新潟出張の際、「機那サフラン酒製造本舗土蔵」というブログで、素晴らしい鏝絵をご紹介した際、
「いやいや、静岡だって負けてない、いつかご紹介します」
と書かせていただきました。
有言実行。
家族で静岡県は伊豆の松崎町にある、長八美術館に行って参りました。
設計は、石山修武氏。
石山修武氏と言えば、建築誌で「開拓者の家」というのを見ており、「なんかスゴイ人」というイメージしかありませんでしたが、長八美術館は、非常に端正な佇まいの落ち着いた建物でした。
(この美術館の設計で吉田五十八賞を受賞されています)
内部はこんな感じ。
白い壁と大胆な天窓が何とも素敵でした。
ちなみに、長八美術館と言えば土佐漆喰。
今や土佐漆喰は建築家なら一度は使ってみたい憧れの漆喰と言われますが、この長八美術館が建てられる時、全国から集められた腕利きの左官職人でさえ、土佐漆喰は知られていなかったのだそうです。
今から30年近く前、この美術館で使われるまで、土佐漆喰は瀬戸内海を越えたことがなかったのだとか…。
ちなみにその土佐漆喰は、
中庭の外壁に塗られています。
混ぜられる藁のアクで、黄色がかっているのが土佐漆喰の特徴と言われますが、外部に使うと徐々に白くなり、ご覧の通り。
以前、漆喰は空気中の二酸化炭素と還元反応して炭酸カルシウムになってゆく=石灰岩のように堅くなって行く、と書かせていただいたことがあります。
漆喰って、生き物のようですね。
もちろん、この他にも、内外壁とも、様々な左官の技と材料が使われておりまして、
こちらは今は見かけなくなった「なまこ壁」。
さて、ここが長八美術館という名前なのは、左官の神様と称される稀代の天才左官職人、入江長八が松崎町の出身で、町の活性化事業で建設されたことによります。
長八は江戸末期から明治にかけて活躍した左官職人で、江戸で狩野派の絵を学ぶと、左官のコテ(鏝)で絵を描く「鏝絵」を、芸術の域まで高めた人です。
26歳の若さで江戸日本橋茅場町薬師堂の御拝柱の左右に『昇り竜・降り竜』を制作し、名人と呼ばれる様になりますが、関東大震災で作品のほとんどが消失してしまいました。
そのため長八美術館には、工芸家としての晩年の作品を中心に収められています。
美術館では、見学用にルーペを貸してくれます。
(ちなみに写真撮影も自由。さすが静岡県人、大らか。)
何故にルーペ?
見て下さい、この緻密な鏝絵。
近代建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエの『神はディテールに宿る』の言葉が浮かびます。
こちらは「富嶽」という、長八68歳の作品。
故郷の海にこぎ出でる帆掛け船。
乗船客一人一人まで全て鏝で形作られたうえ、顔料で緻密に塗られています。
スゴすぎっ…。
この作品には、なお凄いエピソードがありまして、
額縁の中にもう一段階有る竹の額縁が見えますね。
縦枠の竹は青く塗られていますが、下側の横枠は塗られていないまま。
何故?
実はこの竹の額縁は、長八の遊び心が生んだフェイク。
そう、この竹の額縁も精巧な鏝絵なのです。
上の写真で、竹の額縁部分が一部欠けて、白い漆喰が見えています。
ここで所有者が竹ではなく鏝絵の一部だと気付き、塗るのを途中でやめたのだとか!
こんな置物の作品もありました。
わざわざガラスの上に展示し、下に鏡を置いてあります。
このおじさん、足袋履いてます(笑)。
遊び心MAX。
そもそも、左官とは、宮中の営繕を行う際に無官だと都合が悪いので付いた位だという説があります。
その昔、鏝から材料をこぼして汚すようなみっともないマネはしないと、白袴で仕事をしていた、と何かで読んだことがあります。
これは、「ゑぶり」と呼ばれる瓦の端部の押さえですが、鏝絵も含め、この様な装飾は、職人から施主への仕事をさせていただいた事への感謝の気持ちで、現場毎に作ったのが始まりなのだそうです。
同じ様に、欄間の彫刻も宮大工が作っていたことがあるそうで、亡くなった祖父が、
「お寺の解体工事の際に、『親父の銘があるぞ』とオレにくれたんだ!」
と、曾祖父が彫った彫刻の欄間を嬉しそうに、懐かしそうに私に見せたことを思い出しました。
作らせていただく事への感謝の気持ち、大切にしたいです。
そして、「ありがとう」を貰える仕事人でありたいと願います。
(…や、エイプリルフールだけど本心です…汗)
松崎町長八美術館、やや遠いですが、一見の価値ありです!
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Comments
ちなみに私は生クリームよりカスタード派です。
…何のこっちゃ
ずいぶんときれいになったんですね
亡くなった義父が左官業だったので
前に松崎に行ったときに
長八についてあ講義をされた記憶が(笑)
左官屋は、ケーキのクリームぬらせると
薄く均一に塗りますね(笑)
さすが。
早速「ありがとう」を有り難うございます。
感謝の気持ちは大切にします。
心のこもったお仕事も、もちろん社員・職人全員の基本です。
でも、
心のこもった「サービス」は、「有償」です(笑)。